音楽配信の普及によって権利に縛られているのに気づいたユーザー
iTunes Music Store(iTMS)における購入した曲ファイルはFairPlayというアップルがつくったDRM(Digital Rights Management、著作権管理技術)で無制限にコピーされないように保護されています。
iTMSが日本で8/4に開始されてから、アップルがiTMSで販売している曲にかけられているこのDRMが自社のiPodでしか購入した曲を聞かせない、iPodを買わせるための囲い込みだ!という論調の発言をあちこちで目にするようになりました。
「iTMSという音楽配信における素晴らしいショップがあって、私はそこで曲を購入したのに、自分が持っている携帯音楽プレーヤーにはそのまま曲を転送して聞くことはできないというのは何事だ!」
てな具合にです。
iTMSが始まる前にも、国内の音楽配信サービスはいくつも開始されていたにもかかわらず、なぜそこではこのような声は上がらず、iTMSでは上がるのか。
これは、ひとえにiTMSに対する期待の大きさの裏返しであると言えるでしょう。
他の国内音楽配信サービスでは、そもそも転送できる機器に対する転送であっても1回のみであったり、回数制限がついていたり(iTMS + iPodでは転送無制限です)という時点でユーザーは「そんながんじがらめに規制されたサービスならいいよ」と購入を断念してしまっていたわけです。また、制限を我慢してこのような音楽配信サービスから曲を購入していた人々は、そう簡単に制限を緩くしてくれるはずもないということがわかっていますから、声を上げなかった。
それが、DRMの制限が緩いiTMSが開始されたことによって、いままで音楽配信サービスで曲を買うのをためらっていた人たちがせき止められていた水が流れ出すかのようにどっと押し寄せ、一気に曲を購入しだし(開始4日で100万曲販売)、さらにはiPodでしか購入した曲を聞けないのはおかしい!と声を上げるに至った訳です。
当たり前の話ですが、ユーザーは思っているのは、
- 自分の納得いく音楽配信サービスで曲を買う。
- 自分が購入した曲を、自分の好きな携帯音楽プレーヤーで聞く。
という2点を満たしたい、ただそれだけの話なんです。
現在の状況で幸せになれるのは、上記の1.と2.がちゃんと連動しているユーザー、例えば(iTMS + iPod : FairPlay)、(mora + ATRAC3対応プレーヤー: ATRAC3)、(「MSNミュージック」、オリコン、USENなど + WMA対応プレーヤー : WMA)の組み合わせを利用しているユーザーだけ、ということ。
前日の記事で、この状態をゲーム機とゲームの関係に例えましたが、
ゲーム機器の比喩は、ソフトウェアプログラミングがハードウェアに非常に強く依存する(ことがとても多い)ということを消費者が知ってしまっているので、「なんとかしろ!」という不満は、「移殖しろ」(形式を変えて内容を可能な限り再現しろ)という要請になるだろうと思う。
での指摘にあるように、曲とそれを再生するプレーヤーとの関係を表す比喩としてはちょっと不適切でした。(「ゲーム機とゲーム」は、「曲とプレーヤー」に対してもっと強い依存状態にあるため)
一番制限の緩いDRMを採用しているはずのiTMSで不満の声が多いというのは、それだけユーザーが音楽配信においてそこに集中していることを示しているんだと思います。
この状態が解決されるにはiTMSがDRMをもっと緩くして他社の製品でも再生可能になるようになるか、もしくは他の国内音楽配信サービスがiTMSなみに使いやすい制限、サービス内容になる、というののどちらかしかないんですが、果たしてどっちが先にユーザーに歩み寄ることになるんでしょうか。
Apple側は現状でも十分にユーザーを引きつけているので(iTMS + iPod : FairPlayの組み合わせを使ってくれるユーザーが十分に多い)、そう簡単にはFairPlayを解放してくれることはないような気がします。
かといって、いままで頑なに厳しい制限がついたDRMを採用し続けてきた(iTMSの開始で競争状態にある曲だけは制限が緩くなったりしていますが・・・)他の国内音楽配信サービスがそう簡単にユーザーの側に歩み寄ってくれるとも思えません。
日本の場合、音楽配信サービスを行っている会社と、携帯音楽プレーヤーを販売している会社が同系列の会社であったりするので、むしろAppleが行ったようなiTMS + iPodのような形を作るにはうってつけだったはずなのに、どこでどう間違った道を選んでしまったんでしょうか。むしろ逆に同系列の会社だったが故により制限を厳しくしようという方向に進んでしまったのでしょうか。
音楽配信サービスを使いだした人々は、口を揃えて「音楽を聴くのがこんなに楽しいことだったと夢中になれたのは久しぶりだ」と言います。(そのほとんどはiTMSでの体験なのですが) それだけの可能性を秘めている音楽配信サービス、今後うまくいくかどうかは、いかにして過去のしがらみを打ち破って新しいしくみを取り入れて行くかにかかってると言えるでしょう。
ぶっちゃけて言っちゃえば、国内の音楽業界はいかにユーザーの思惑と全然違うところを向いちゃってるかってのを早く認識してくれよ!ってところに尽きるのですが。