僕勇者です(3)


「ようこそ○○の街へ」


まぶしい日差しに照らされながら、今日も街へとやってくる人への挨拶に精を出す僕。



「この国には立派な勇者がいるそうだねえ。」
「・・・えぇ。」
「魔王を倒して、国に平和をもたらした立派な勇者だってなぁ。なんでも東の国にまた魔王が新たに現れたって噂だけど、またその勇者が魔王を倒しに行くという話じゃないか。」



そう、魔王が倒され、モンスターのいない平和な日々を送りつつも、モンスター退治に全てを依存しすぎていたこの国からは、活気が失われてしまった。

かつて、モンスターを倒すという共通の願いから人々が集い、戦った。
そして、それを補佐する人々。
戦うためには欠かせない武器や防具ももちろんだが、戦いから戻ったあとには酒場やカジノでうっぷんをはらしたり、宿屋でぐっすり眠って疲れを取るのも重要だ。
世界中から、モンスターを倒して一山稼ごうとさまざまな人々が国をおとずれる。
そんな人々の熱気でまるで炎が燃え上がるがごとく勢いづいていた街。
モンスターを退治するために作られた街。

このまま消えていきそうだった街に活気が戻って来たのは、他でもない、モンスターの姿が復活し始めたからだった。
魔王は死んだはずなのに。



再び現れたモンスターによって平和だったあの日々は失われたけれど、そのモンスターを退治するためにやってくる人々で、街ににぎわいが戻ってきた。
平和は失われたのににぎわいが戻る、こんな奇妙なことがあろうとは。

僕の仕事は、モンスターを倒しにやってきた人達に街を案内することだった。
これで幾ばくかの路銀を稼ぐことができる。



薄汚れた街かどの廃屋、かつて勇者だった僕は今、ここで寝泊まりしている。

14歳で魔王を倒すために旅立った僕。
でも、本当の僕は臆病者で魔王に立ち向かうことなんて出来ずに山にこもるしかできなかったんだ。
そうしてるうちに何故か死んでいた魔王、その魔王を倒した勇者として迎えられた僕、後から分かった魔王が自害したという事実。

「我倒さんとするものここにあらず。我故に孤独を思いここに骨を鎮めん。」

魔王が残したその言葉に突き動かされ、魔王になるべく決意した20歳の僕。
そして、魔王への道を探して世界を旅した。
しかし、魔王は経験を積んでなるものではなかった。



生まれつきの魔王たる素質。
魔王を魔王たらしめてる唯一無二の魔王らしさは、なろうと思ってなるようなそんな生易しいものでは無かった。
魔王は魔王になったんじゃない、魔王でしかいられなかったのだ。



僕は魔王にはなれない。でも、僕は魔王にならなくちゃならない。
そんな葛藤を繰り返すようになっていたあの日、僕の前に突如姿を現した美しい青年の姿をしたあいつ。
「本当に魔王を倒したのは僕だ」というあいつは、かつて国の勇者だった僕の位置に納まり、国王の信頼を得てその右手とも言える立場まで瞬く間に登り詰めた。


僕はといえば、本当は魔王を倒していなかったことがばれ、一夜にして「勇者」から「なんでもないただの人」へと成り下がった。
街の人の冷ややかな視線に耐えながら、街を訪れる人への案内で路銀を稼ぐ日々。



魔王が消え、その配下であるモンスターも消え去り、得られた平和と引き換えに、活気を失ってしまった国。
モンスター退治に依存していた国。
そんな国に再び活気を呼び戻したのは、僕の代わりに勇者の位置に納まったあいつ。

あいつが魔王を本当に倒した勇者として認められた後、なぜか魔王とともに姿を消していたモンスター達が再び姿を現す様になった。
あいつは再び沸いたモンスター達を退治してまわり、あっという間に国民の支持を得ていった。
傾きかけていた国を立ち直らせたのは、あいつの功績と言うしかなかった。

いや、正確にはあいつと、突如再び現れたモンスター達の。



やがて、東の国のはてに魔王が復活したと噂される様になった。
モンスターが再び姿を見せるようになったのも、そのせいに違いない、と多くの人々が噂を広めた。
そして、あいつが再び魔王を倒しに行くと国王に宣言したという話は、あっという間に国中に知れ渡った。
国中がその話題で盛り上がっている。



かつて、勇者として生きるべく14歳で旅立ち、20歳にして魔王になろうと決意し、世界中を放浪するも、魔王にはなりきれず勇者という立場も追われ、気づけば廃屋の片隅で隠れる様に横たわっている僕。
この前の満月で、もう35歳になってしまった。



「新しい魔王を倒して、あいつはますます国王や国民の信頼を得るだろう。勇者でもなく、そして魔王にもなれなかった僕の居場所はもうこの国にはない。どこか、ひっそりと暮らせる場所でも探しに行こう・・・。」
あいつが魔王を倒しにいくために出発するとされていた日を前にして、僕はひとり静かに街を出た。
もう、ここは僕が居るべき場所ではないんだ。




ぼくがいた街を遠くに見下ろす山の頂き、この峠を超えれば隣の国へと出られる。
今夜が、ここから見渡すことのできるあの国の見納めだ。
あの国を旅立ってからいろんなことがあった。
でも、僕は勇者にも魔王にもなれなかった。

そんなことを思い出しつつ、野宿の支度をする僕の目に赤い光が飛び込んできた。
あの城から見える赤い火はなんだ?



赤い火だけではなかった。
城から続く街の至るところから白い煙が上がっている。
なんだ? いったい何が!?



とまどう僕の耳に、何かが近づく物音が聞こえる。
聞き慣れたこの息づかい、・・・モンスターだ!
復活していたとはいえ、こんなに街から近くにモンスターが出没するなんて!!

・・・いや、モンスターだけじゃない。
近づく物音には明らかに人の息づかいも混じっている。



そして、僕は...




の続き。勢いで書いてみた。

適当に盛り上げたところでお腹が減ったので、おしまい。
続きを書きたい人はご自由に!