iPhoneを必要とする人、いらない人


iPhoneユーザに問いたいこと」を読んで。

iPhoneの何がすごいのか分からない、という人達は、日本でのiPhone販売がソフトバンクモバイルからに決定し、実際に発売されたここ一ヶ月ちょいの騒動を見てるとそれなりに居て、発売後のバッシングなども結構すごい。

好きの反対は嫌いだけど、ある製品について考えるとき、興味がある、ない(無関心)、という視点で切り分けることもできる。アップルのすごいとこは、好き嫌いはくっきり分かれるけど、興味があるないで言ったら嫌いと言いつつもなぜか語らずにはいられない人(興味あるに分類される)をたくさん集めてしまうブランド力につきる。


わたくしも、iPhoneのデザインはおもしろいね、とは思う。ボタンのほうがぜったい使いやすいのに、タッチパネルにこだわって指紋を増やさせるあたり、いかにもジョブズ期のアップルらしい思い切りだよね、これまでのユーザ経験の蓄積なんてなにも考えてないよね、という。まあ、そういう創造的破壊も誰かがやらねばならぬのでしょう。

マウスのボタンが一つなことに頑なにこだわったり、広く使われていたFDDをすっぱり斬り捨てたiMacのようなマシンを出したりと、それまでの人が当たり前と思ってるところをすっぱり切り捨てる。かと思ったら自分の音楽ライブラリ全てを持ち歩く!なんてそれまでどこもやろうとしなかったコンセプトの携帯ミュージックプレイヤーを出してみたりと、アップルの思想ってのはそれまでの流れに一切よらず、パラダイムシフトを起こすような製品を作り出すことに長けている。



ボタンとタッチパネルの対比で言うと、ボタンの長所短所、タッチパネルの長所短所ってのがある訳です。ボタンはありとあらゆる装置で使われており、単純に押したらそれに対応した機能が実行されるという代物。

携帯電話を見ると、電話番号を入れるのに必要なテンキーに加え、通話、切断などの機能ボタンがあり、更にメールやカメラ、ネットなどの機能が増えたのでそれに対応するボタン、メニューを操作したりするためにカーソルボタン、決定ボタン、閉じたままで何かを確認するためにサイドにもボタン、と端末が高性能になる度にボタンが増えていき、今ではどの携帯電話でも当たり前の様に数十個のボタンがついています。


もちろん、決められた機能を使うのにボタンは便利で、今まで使ってきた慣れもあるからその操作に適応してる人達もいます。携帯電話でメールを打つには、テンキーを駆使して文字入力する訳ですが、携帯電話のようなガジェットをもう10年以上に渡っていくつも使ってきてても、未だにテンキー入力になじむことができません。

じゃ、タッチパネルを採用したらそんな不満が解消されるのか?と言ったら、まあそんな簡単にはいかない(笑) 今のiPhoneではフルキーボード方式(タッチパネルでキーボードを再現して入力)とテンキー方式(携帯電話のテンキーを再現して入力)という2種類の入力方式があって、ボタン入力と比べてどうか?と言われると可能性は感じるものの、タッチ感度の問題、反応速度の問題、文字変換の優秀さ(これはインタフェースそのものではないけど、日本語入力では重要)でまだまだ向上の余地が感じられます。言い換えると、ボタン教の人がこのタッチパネルの入力を試してもまだ大半の人は満足しないだろうな、というレベル。

でも、テンキー方式ではボタンと同様の押した回数で文字を決定する方法だけでなく、タッチパネルならではなスライド式(押した後に4方向にスライドさせることで2アクションで文字を決定する方法)も可能だったりと、タッチパネルならではな方法も実装されていて、慣れると結構快適かも?と思わせてくれます。


タッチパネルの特徴を挙げておくと、

  • 入力方式に応じていろいろと入力エリアを変化可能(ボタンは対応付けは変えられてもボタンそのものは固定)
  • たくさんの物からひとつを選ぶ、ようなシチュエーションに強い
  • 目視しながらでないと使えない
  • 押す、以外にもスライド、マルチタッチなどのバリエーションに富んだ操作が実現可能


iPhoneは携帯電話という電話機能から始まって次第に機能を増やして行った機器というよりかは、ネット接続が主でそこで使えるさまざまな機能をどんどん実現していく機器なだけに、入力方式を機能によって変化させることができるタッチパネルとの相性がいい、というのがiPhoneでタッチパネルが採用されている大きな理由だと思います。



まあ、指紋が付きまくるというのがタッチパネルの大きな欠点だというのは確かで、なぜかアップルは指紋がべたべたつくのを気にしません。ここはiPhone派な私もなんとかして欲しいところ。iPodの裏側の鏡面ステンレスとかiPhoneのタッチパネルとか、見た目はすごい綺麗なんですけど、指紋がベタベタついてしまうのは大きく萎えるポイント。綺麗に見えつつ指紋がつかない外装とかタッチパネルってのをぜひとも採用してもらいたいな、と常々思っています。

一方、肝心の機能は…今となっては普通かな。インフラが同じなんだから当然か。信者もiPhoneには「ダントツにスゴイ!みたいなものはない」と認めている。もたないバッテリーとか、バカ高い修理費とかいうバッシングもあるけれど、これはマックでもiPodでも繰り返されてきた、もはやアップルさまの伝統芸でしょう。今さらそのあたりを叩くのも筋違いかなー、と思う。わたくしもBang&Olfsenのコンポにいまさら「高い!デザインが変!」なんてことは言わないし。

機能だけでは量れない何かを実現している、というのもアップルの製品の特徴。


世の中で売られている車はどれも道を走ることは当たり前にできるけれど、運転していてドライビングを楽しめるかどうかは車によってずいぶんと違う。同じ様に「Webブラウズができる」ってのと「快適にWebブラウズができる」ってのは違う。

他と同じ様な機能の実装だけれど、使っていて心地よいと思わせる操作性を実現してるのがiPhoneのすごいところ。


操作性ってのも機能のひとつだと思うのだけれども、ここはスペックのような形で書き表せる代物ではないので、どうしても感覚的にしか伝えることができない。そこを理解できる人と、理解できない人の間に溝が横たわっているんだと思う。



iPhoneで可能な機能の大きな特徴のひとつにSafariによるWebブラウズがあるけれど、携帯サイトではない一般のサイトを見るときに携帯電話の小さな画面であれだけ快適にWebブラウズできるブラウザを搭載している携帯電話やスマートフォンの存在を私は知りません。

スペック的には決して高くない解像度にも関わらず、タッチ&スクロールでページ内を自由に移動し、見たい場所はダブルクリックで即座に最適化されて拡大。ピンチイン・アウト(二本の指で開いたり閉じたりするアレ)で自由に拡大縮小させることも可能。Flashjavaは実行できないものの、他の携帯電話やスマートフォン、ゲーム機などのブラウザとは比較にならない快適さでWebブラウズを実現しています。なんかアップルのサイトの紹介文みたいだけど、これは実際に使用・比較してそう思う。

しかし世の中「おもしろガジェット」という評では満足せず、歴史的事件と喧伝する驚き男がいる(この表現はほんと秀逸だわー、さすがid:matakimitka)。ユカタンは「欲しくないと言えない」と困っているが、わたくしとしては卒直に、そんなにすごいか?と言いたい。

世の中、いろんな商品があって、それをどう思うかなんて人それぞれ。「iPhoneは歴史的事件だ!」と熱く語ってる人達は、そう感じる何かがあるからそれだけ入れ込んでるんじゃないのかな。何をすごいと感じるかなんて、人がそれぞれに何に興味を持ってるかで全然違うので、「携帯電話の歴史はここで大きく変わる!」って熱弁を振るう人もいれば「何がすごいか分からない」と冷めた目で眺める人もいる、そのことには何の不思議もない。

個人個人が、iPhoneなりある商品なりをすごいと思うのは勝手だけど、「これが分からない奴はくずだ!」のようにそれを人への攻撃に使いだしたらそりゃおかしいよ、宗教じみてる・・・と思うけどね。


「開発者」に限定する、という譲歩があっても疑問だ。アップルという一企業の、一プロダクトの、一バージョンでしかないiPhone 3Gが民主的なプラットフォームか?「端末の種類が基本的に1種類」って今だけの話じゃないの?次のバージョンでは画面解像度が変わって、APIが変わって、開発者を混乱に陥れるんじゃないの?これまで、アップルが突然の方針変更でどれだけの開発者を混乱させてきたか、記憶にないのか?(PowerPCのとき、OS Xのとき、Intel Macのとき…もしアップルが首尾一貫した開発ポリシーの企業なら、なぜマックの商用アプリケーションはいつまでも貧弱なままなのだろう)

iPhoneの文脈で語られる「民主的なプラットフォーム」というのは、アプリの開発への障壁の少なさ(少ないコストで簡単に開発を始められる)、アプリの配信・販売をアップルが引き受けてくれること、他のプラットフォームでのアプリ開発にある余計なしがらみがないこと、辺りを指しての指摘であって、ハードウェア的に広くライセンスされてどこでも作ることができるハード上とか、アップルの管理がなく自由奔放なソフト環境といった意味合いではない。

今はほぼひとつに集約されているiPhoneのプラットフォーム(旧iPhoneもソフトウェアアップデートでほぼiPhone3Gと同等な環境になる、ハードウェア的以外には)が今後も続くのか、というのは先を見ないと分からないので今結論を出すことはできない。

アップルが過去の突然の方針転換でどれだけ開発者を混乱させてきたかは、歴史が語る通りでそういう意味では人騒がせな企業なことに間違いは無い。でも、その一方で他社がなし得ない数多くの変革をもたらしている企業であることも事実。アップルの製品、思想に魅力を感じる人はついていけばいいし、感じない人は去ればいい。



っと、ここまで書いて来て、まだ質問に入ってなかったことに気づいた!! 長い!!w

* iPhoneでなにをするの? 素敵でお洒落なiPhoneであることは分かったよ。すばらしいビジネスモデルによるパラダイムシフトかもしれないよ。それはそれとして、iPhoneってツールでしょ?なにができるようになるわけ?お財布やらワンセグやらを諦めたかわりに、ユーザは実質的にどのような幸せを得られるの?Pongができること?YouTubeが簡単に見られること?

日頃、PCを用いて利用しているネット環境がモバイルで実現できること、これにつきると思う。

だから、PCを用いてのネット利用が多い人ほどiPhoneに惹かれるし、逆にPCを用いてのネット利用が少ない人にはなにをしたらいいのか分からないってことになる。


ブログやミニブログの更新、RSSリーダーなどでの更新チェック、自分が管理するサイトのアクセスや反応確認、メール・スケジュールなどの確認などなど、PCでやっている作業が出先でもモバイル環境で自由に使えるのなら、これほど便利なことはない。


* iPhoneは二年間の利用に耐えるの? 二年縛りが携帯電話契約のスタンダードになってから、大半の人は「現行機種は二年後も使えるだろうか」と悩みながら購入を検討しているわけだ。iPhoneはどうなの?二年間もあのソフトウェアキーボードを使い続けるの?そういえば去年の今頃、2Gを買った人は3Gをどう思ってるんだろう。来年にさらに革命的な新機種が出ることはないのかな?iPodみたいに毎年買い替えなきゃ駄目?わたくし、そんな金ないよ。

iPhoneを購入した人も、ソフトウェアアップデートで最新のiPhone3Gに近い環境へとアップデートすることができる。もちろん、ハードウェア的に実装されてるものは実現できない(3G回線やGPSなど)が、それ以外はほぼ最新のものと同様にアップデートする。スマートフォンでは似た様なことが可能なものもあったが、携帯電話ではこういう機能的なソフトウェアアップデートはほぼ存在せず、買ったままの状態で2年間使うことになるんじゃないだろうか?

賛否両論(否の方が多いか?)なソフトウェアキーボードも、最初に出た当時よりはずいぶんと良くなった。今後もアップデートで改良されていくだろう。


来年にさらに革命的な新機種がでる可能性は否定できない。でも、それは携帯電話でも同様だよね?


iPodは毎年のように魅力的な新製品が発表されるけど、別に毎年買い替える必要はない。自分が欲しいと思って、財力的に見合うのなら買えばいいだけ。iPhoneは買い替えた場合に、電話に関する機能と通信機能(キャリアに依存する部分)は使用不可になるものの、ソレ以外のiPodとしての機能はそのまま利用できるという旨が発表されているので、買い替えた後は自分でサブiPodとして利用するなり、売るなり、知人にあげるなり、好きにすればいい。


* なぜ既存の日本の携帯電話では駄目なの? わたくしが一番不満なのは、iPhoneユーザの多くが、日本の携帯電話業界、これまでの機種をバカにしていることだ。なんで?本当にイノベーティブだったら、過去のプロダクトをわざわざ叩く必要ないじゃん。そりゃあ日本は世界で見ればガラパゴスかもしれないけど、そういう市場環境があったわけで、仕方ないじゃん。これまでの携帯電話はなにが駄目だったの?ワンセグを採用したのが駄目だった?iモードが駄目だった?マルチタッチスクリーンを採用しないのが駄目だった?

簡単に言ってしまうと、必要としている機能が違う文化圏があって、互いに互いをバカにしてる構図だってこと。


携帯サイトやワンセグ、絵文字付きメール、お財布機能など、それを日常的に使っていて、無くてはならないものになっている人が大勢居る一方、それらには興味がなく上述したようなPCにおけるネット利用のような環境を機能として望む人達がいる。そういう人達は、携帯電話のフルブラウザ機能だったり、スマートフォンだったりにその解決を求めて群がっていたがそれで満たされない人々がいっぱいいた。

そんなところに出たiPhoneでは、他のどんな携帯電話やスマートフォンより快適にモバイル環境(PCにおけるネット利用と同様なもの)が実現可能になっちゃったんだから、嬉しくないはずがない。


そして、喜ぶあまりに、いままでさんざん虐げられて来た腹いせとばかりに日本の携帯環境(ワンセグ、携帯サイトなどなど)を叩きに走ってる人も出た。かなり前にも書いたけど、人々が何を欲してるかなんて、人次第なんだから、自分が理解できないものを好んで使う人々を叩いて「お前ら何も分かっちゃいない」なんて悦に入ってる人ほど見苦しいものはない。


iPhoneに熱狂的になっている人達(の一部)がいままでの携帯電話のユーザーをバカにしているという現象と全く同じ様に、今の携帯電話にはまっている人達(の一部)がiPhoneのユーザーをバカにして叩きまくるなんてのもiPhone発売後にネット上のあちこちで見られる。

自分が理解できないものはクズだ、とばかりに切って捨てるほど了見が狭いことはない。



iPhoneを買うかどうかは、自分でiPhoneってのはどういう代物で何ができるんだ、どれだけお金がかかるんだ、ってことを考えて決めればいい話。みんなが買うから、話題だからなんてノリで買って、思ってたのと違うなんて言ってもそれは単に下調べ不足にすぎない。安くない買い物なんだから。

iPhoneで実現可能な機能を欲していた人達にとっては、たとえ2年で20万以上かかっても全然安いものだろうし(彼らが望むものを実現するにはそれなりの金額がかかることは彼ら自身よく知っている)、何に使うか分からない?なんて人には2年で20万は高すぎる買い物だろう。




なお、2年で20万と言われてる金額だが、iPhoneを契約すると月々のサービス利用料金で最低7280円かかるため、7280円x24=174720円がサービス利用料金となる。

携帯電話でパケットし放題をフルに使ってる人なら、月々の7280円というサービス利用料金がそんなに高い物ではない(iPhoneではPCで見るサイトを普通に見られるので、当然データ転送量は爆発的に増え、パケット代も爆発すると考えられる)ことを知っているが、普段携帯でちょこっとメールしたり、少し携帯サイトを覗くくらいで月3000円とか、ソレ以下の利用料金しか払っていない人達が、そのままの使い方で月7280円取られるのは高い!と感じるのも無理は無い。そういう使い方は想定外な端末なのだ。

同じ機能を持ったiPodを出すとしたら、ソフトバンクが割り引いている本体価格の元の値段を見ると、だいたい妥当なところなんではないだろうか。8GBで69120円、16GBで80640円という値段だ。ネットを利用するつもりはないけど、iPhoneは欲しいって人は、この値段でiPod touchが出たらどう思うんだろう?





長々と思うところを書いてきて、最後にひとつ謝らなければならない。すいません、私はまだiPhoneユーザーじゃありません・・・・・・。orz


だって売ってないんだよ!地方には!!(泣)