融合する電子書籍とweb

iPadが登場した頃から、日本国内でも急激に盛り上がって来た電子書籍に関する話。


電子書籍のあり方


日本国内で毎日の様に報道される電子書籍に関するニュースの多くは、どこそこの出版業界が○○という電子書籍サービスを開始した、出版と印刷が手を組んで△△、電子機器メーカーが電子書籍リーダーを発表して同時に電子書籍配信サービスも発表、というような流れ。こういう流れは現在、紙媒体で流通している書籍を電子書籍でもリリースするという文脈で語られている。

また、自炊(=紙書籍をスキャンしてPCや電子書籍リーダーで読める形で取り込むこと)に関する話題も多い。これもまた、紙媒体を電子書籍に、という流れで、盛り上がりつつはあるものの日本語を取り扱うフォーマット的な問題、版権元の電子書籍にかける熱意的な部分で、なかなか自分が読みたい本が電子書籍化されない状況に待ちきれないユーザー側が、力技的に自力で電子書籍化しているという。10年ほど前からのCD〜音楽配信と似た様な流れでもある。



このように電子書籍=紙媒体の本を電子化したもの、と考えがちだけど、電子書籍用のデバイスkindleiPadなど)で読めるデータ形式での書籍を電子書籍とするのならば、必ずしも紙媒体スタートでなくてもいい。最初から電子書籍で流通させる形もあるだろうし、紙媒体では不可能な映像や音声などと融合した形の電子書籍もありだろう。


書籍というスタイル


書籍ってなんだろう?と考えると、あるテーマに沿っての文章がまとめられたもの、である。短いものなら数十ページ、長いものだと数百ページに渡る。複数の著者が文章を持ち寄って作るタイプの書籍や記事が集まってできた雑誌などでは、数ページ程度の小さな文章が集まって書籍の形を成している。また、一人の著者による書籍でも、章や段落などで分解していくと、数ページ程度の小さな文章の集まりとなる。



この数ページ程度の文章というのは、多くのwebサイト、ブログなどで見る記事・エントリの文章のサイズと似た様なものでもある。だから、webサイトやブログの記事・エントリから書籍化という流れが起こるのも当然の流れ。あるテーマに沿ってまとめられているwebサイトやブログは、ネットという空間上での書籍とも称せるパッケージングでもある。


電子書籍の進化の先


電子書籍は何らかのデバイス上で読む必要があり、その特性はそのデバイスの能力に大きく依存する。紙媒体の書籍を置き換えることに注力した電子書籍バイスなら、そこで閲覧できる電子書籍の特性は紙媒体の書籍のそれとほとんど変わる事はなく、せいぜい省スペース・暗い所でも読めるくらいなものだろう。



が、その電子書籍バイスにネットワークと接続する能力があったなら、ネットワーク上から直に電子書籍を入手することも可能になるだろうし、どこまで読んだかを記録しておいて別の電子書籍バイスで続きを読んだり、気になる部分に線を引くというマークアップ情報を大勢のユーザーと共有し、重要な部分があらかじめ分かるような読み方も可能になる。

さらに、電子書籍上の一節を引用してブログで言及した記事を書く事なんて形も可能になるかもしれない。



その電子書籍バイスがカラー表示可能なら、写真集や絵本、雑誌などを電子書籍化することも可能になる。動画にも対応し音声も再生可能だとしたら、紙媒体では絶対に不可能な音や動画が含まれた新しい形の書籍も作ることができる。(実際にそういう形の電子書籍もあちこちからリリースされつつある)


電子書籍の表現の拡大とweb


このように表示する電子書籍バイスの表現能力によって、電子書籍がもつ表現力は紙媒体のときよりもずっと拡大していくのだけれども、ここではたと思いあたる。表現能力が拡大した電子書籍って、実はwebそのものなのではないかということに。


webブラウザも内蔵されたiPadのような電子書籍バイスでは、電子書籍を読む事とwebサイト・ブログを読む事の間には形式的な違いはあるものの、文章を読むという点においては大きな差はない。

あるテーマに沿ってまとまった形を望むのなら電子書籍、より速報性の高い情報を読みたかったり、多くの視点を見たい、高い表現力を楽しみたい、双方向的なやりとりをしたい、というのはweb、というように選択して見る事ができる。


パッケージングの重要性


紙媒体の本は、それを流通・販売することで広めなければならなかったため、ある程度の分量を必要とし、現在の本や雑誌のようにパッケージングされた形となった。一方、webサイトはそもそも量に依存せず公開でき、流通コストをほとんどかけずに全世界に向けて発信できるために必ずしもパッケージングされる必要がなかった。

webで公開されたものが、パッケージングされて紙媒体の書籍になることもあるのだから、両者が相互変換可能なことはすでに証明されている。webに公開するものでもしっかりパッケージングすれば電子書籍足りうるし、そこから紙媒体に書籍へと場を移すことも可能になる。



webサイトやブログではRSSフィードによって個々の記事のデータが発信されているが、あるテーマに沿ってパッケージングした記事の塊を電子書籍的なデータとして発信するという形も今後ありなのかもしれない。