常時オンのコミュニケーション手段


ケータイ進化の方向性は全然間違っている論 - 高校生奮闘記」を読んで。

携帯電話の進化の方向は多機能化ではなく、通話機能の敷居を下げる方向なんじゃないか?という話。

極論を言えば、『電話』と『会話』の差を無くせばよいのだ。こうなればコミュニケーション量の莫大な増加を発生させることが出来るはずだ。そうなれば全く生活の中で感覚が変わってくるはずである。

遠く離れた場所に居る人と、まるで隣にいるかのように「会話」できるようになるツールへの進化。これは携帯で常時メールをほぼリアルタイムに送り合うような世代だから思いつく内容なんだろうか。


技術的にそういうツールを作ることは難しい問題が存在してるものの不可能ではないだろう。でも、多くの人がそれを必要とするだろうか?ってところで疑問を感じる。


いつでも繋がるということ


「いつでもどこでも誰かに話しかけることができる」ってのは、裏を返せば「いつでもどこでも誰かに話しかけられる」ってことを意味する。


「何かを伝えたいと思った瞬間にすぐに伝えたい人にそれを伝えられる」という送る方向から見ると便利な環境だけど、それは「あちこちからいろんな情報がこっちの状況関係なしに送られてきまくる」ってことも意味している。


音声コミュニケーションってのは、互いの時間を束縛してしまう互いにとってコストの高いコミュニケーション手段ではないだろうか。両者が互いにコミュニケーションしたいという同意がとれている間はいいが、日常的に常時そういう状態を維持するってのは難しい様に思う。あるとしたら、あるイベントに際して音声コミュニケーションを取るって形で、今は電話通話が主流だが、テレビ電話、ボイスチャットなんかがこれらの進化の方向としてあると思う。

PCやゲーム機ではそれらの機能が実現されているものも多い。


受け手側がオンオフを自由に切り替えられるテキストコミュニケーション


「いつでも繋がる」ことを主眼とするのなら、音声通話にこだわらず、むしろ情報量の下がるテキストの方がいいような気がする。ログが残せるので、時間に縛られることはなくなるし、自分のタイミングで返信ができる、一人から多数へ送ることも容易、同時に多くのやりとりを処理できる、などの利点がある。

チャットやメッセンジャーってのは、テキストを使ってリアルタイムなコミュニケーションを行う手法として昔から利用されていて、これは互いの時間を束縛せずに可能な限りいつでも繋がる状況に近づける手段でもある。1:1ならメッセンジャー、複数人参加ならチャット。



携帯メールを頻繁に使う若い人達の間では「メールにはすぐに返事を返さなければならない」という空気があるようだが、それって息苦しくないんだろうか? すぐに返事を返さなければならないってのは、メール返信を互いの繋がりと意識してるがために、すぐに返事がない=相手に興味が無いと捉え、繋がりの保証=すぐに返信するとなってしまったのではないだろうか。簡単にテキストコミュニケーションできる携帯メールという手段を手に入れたが、それがコミュニケーションの幅を広げる方向ではなく、互いを束縛する方向に働いているのが「メールにはすぐに返事を返さなければならない」という文化だと思う。


今の携帯電話でのメールしか知らない人達は想像もつかないかもしれないけど、パソコン通信やインターネットでメールが使えるようになったときに便利だと言われたのは、リアルタイムに返信しなくて良くて、自分の好きなタイミングで返信できるから、だった。電話における留守番電話機能と手紙が融合したようなスタイルがメールだった。

時代が進み、互いにコミュニケーションを取る手段として携帯電話のメールが日常的に使われるようになった今、若い人達に多いであろう「携帯メールをすぐに返さなければならないという空気」ってのは、携帯メールをかつての電子メールの留守番電話的機能の延長と捉えた使い方ではなく、リアルタイムな音声コミュニケーションである電話の延長として使ってるということなんだと思う。



メッセンジャーやチャットを長らく使っている人達の中には、それらを常時オン状態にしていて、オフとの切り替えがほとんどない人達もいる。誰かからメッセージやチャットの発言が入って、それに返信を返した時がコミュニケーションのスタートで、どちらかの返信が無くなったときがそのコミュニケーションの終了を意味する。常時オンだから、いちいち終了を宣言することがない。

自分から相手に発言を投げかけるのはいつでも可能だが、リアルタイムでやりとりできるかどうかは相手の状況次第、相手から発言を投げかけられるのも常時受け付けているがそれに対応するのは自分の状況次第、発信側と受信側のタイミングが合えばリアルタイムコミュニケーションになる。

テキストコミュニケーションに関しては、常時オンに近い状況がすでにこういう形で実現している。



常時オンってのは、「いつでも送信可能・返信は自分のタイミングで」って辺りが落としどころだと思う。繋がろうと思えばリアルタイムにもできるけど、自分の状況でどう対応するかを個別に選択できるという。そうでなければ、あっという間に他から発信される情報でパンクしてしまう人があちこちに出てくるだろう。


常時オンに必要なもの


PCでは電源やネット回線が常時オンな環境を作るのが容易なので、こういったテキストコミュニケーションの手段の進化が進んだんだと思う。携帯で常時回線オンな状況を作るのは、帯域的な問題と端末のバッテリの持ちの問題の2点が技術的に難しそうだ。でも、WindowsMobile端末などを用いて、メッセンジャーやチャットを携帯端末で実現しているモバイラーもすでに存在してるので不可能ではない。



携帯電話の高機能化とPCの小型化は思ったより早いスピードでぶつかることになりそう、というかすでにそういう傾向が出ている。携帯電話が情報端末として進化したスマートフォンは中味的に小型PCと言ってもいいもので、イーモバイルウィルコムなどの端末はもはや小型PCになってしまったようなモノまで登場している。一方のモバイルPCもどんどん小型化が進み、小型ノートPCと携帯端末の中間のサイズである液晶サイズでいえば4〜7インチ程度のモノが大量に出て来ている。

携帯電話の高機能化とPCの小型化のラインがぶつかって、両者の性質を持つ製品が登場してくるこれからに重要なのは、その上でどんな使い方ができるのか、というビジョンをどれだけ明確に打ち出すか?ということ。こんなこともできます、あんなこともできます、じゃなくて、こういう目的を持ったこれに使えます、という提案。



今はPCに詳しく、モバイル機器をいろいろと使いこなす層しか常時オンに近い状態でのコミュニケーション手段を持ち合わせていないが、彼らが使ってる環境を普通の人も使えるような機能が携帯電話などに導入されれば、一気に広がる可能性がある。