高音質CD技術は本当に高音質になっているのか?


昨日見た「ソニーがBlu-ray技術を応用した高音質な「Blu-spec CD」を開発、既存のプレーヤーでも再生可能 - GIGAZINE」って記事、詳細が分からなかったので??と思ってたんですが、その後いくつかのIT系ニュースサイトに出て来た記事をみるとこういう代物だそうで。

Blu-spec CDは、Blu-ray Discの製造技術とブルーレーザーダイオードカッティング、高分子ポリカーボネートを採用した高音質CDだ。短波長のブルーレーザーを用いたことによる極微細加工や正確なカッティングの実現などにより、マスターテープクオリティの音質を再現できるという。

SME、高音質CD「Blu-spec CD」を開発--Blu-ray Disc技術を応用 - CNET Japan


この手の高音質CD技術は、他にもユニバーサルミュージックなどが提案している「SHM-CD」や、EMIなどが手がける「HQCD」なんかがあるけど、どうしてもこの手の技術はうさんくさく見えてしまいます。



いろいろと説明は書かれているものの、どれもCD-DA規格という音楽CDの規格に準拠しており、その枠の中での製品ということになります。(じゃないと既存のCDプレーヤーでは再生できない) どの技術も、さまざまな技術を使ってCDディスクの作成を高品質で行うことによって、よりマスター音源に近い音質を実現することができた、という表記になっていますが、ディスクが高品質になったことで音質ががらっと変わるのなら、いままでの音楽CDは再生時にエラーだしまくりだったってことを言ってることになります。



PCのプログラムやデータを保存するCD-ROMなどを見るに、読み取り時にエラーだしまくりってことはまずありません。そんなことがあったら、そもそもCD-ROMにプログラムやデータを入れて販売するなんてことが不可能になってしまうから。

CD-DAの読み取り方式はCD-ROMなどとは違うため、その読み取り方式のせいでエラーが多いというのはありうる話ですが、そもそも同じ光学メディアディスクを使用して、片方はエラーでまくり、片方は全くエラーが出ないなんてのも納得しがたい話。



音楽CDでプレーヤーによって音が違うってのは、CDに記録されているデジタル状態のデータからアナログの音声データに変換する際の変換部分で差が生まれると思うのですが、違うのでしょうか。



HQCD(Hi Quality CD)の説明サイトを見てみると、

HQCD(Hi Quality CD)は、限りなくマスター音源に近いオーディオディスクです。その音質から、「高音質」の表記をさせていただきました。通常CDよりもグレードの高い、液晶パネルに用いられるポリカーボネートをディスク基盤材料に使用し、反射膜には、従来のアルミニウムに換えて、耐久性・耐熱性・耐光性にも優れた独自の特殊合金を採用しました。2つの素材の相乗効果によって、通常CDと比較して、音の粒が繊細で、解像度・透明感・臨場感が劇的に向上、従来のCDよりも、マスターに限りなく近い音質が実現できました。HQCDはこれまで通りのCDプレーヤーやカーオーディオで高音質を体験できます。 ※高音質とはマスターの再現性の高さを意味します。

HQCDとは? - HQCD / UHQCD 公式サイト

更に、テキストじゃなくて引用できない部分をテキストに起こして引用すると、

マスターの情報を限りなく正確に再現したディスクのピット情報が、高精度で読み取られることにより、高い解像度のクリアーなサウンドを実現しています。直感的な音圧感の変化はもとより、大きく奥行きの増した音場感、さらに豊かに再現される音色感など、これまでに気づかなかった音の発見に驚かれることでしょう。※通常CDとの音質比較の差は、再生環境に影響されます。

HQCDとは? - HQCD / UHQCD 公式サイト

とあって、記事内には

という謎のグラフが「メモリーテック社内データ」として上げられています。



まず、「限りなくマスター音源に近い」という表記がありますが、CD-DA規格に準拠している以上、「サンプリング周波数 44.1kHz、量子化ビット深度 16bit」という条件は変更不可能です。(DVD-Audioは最大192kHz, 24bit、Blu-ray Discは48/96/192kHz, 16bit(どちらも2ch時))「限りなくマスター音源に近い」というのは音楽CD規格上での話ってことです。


また、音楽関連の話題で音質というのが語られるとき、どうしてもこういう何を元にして作ったのか分からないグラフをデータとして上げられている説明が多くて、AV分野における音質の追求というものがどうしてもうさんくさい疑似科学のようなものに見えてしまうのです。



音楽CDがマスター音源にどれだけ近づけるか?というのは、マスター音源を音楽CD用のデータとして変換する録音部分と、音楽CD上のデータを再生機器用にアナログに変換する再生部分の二カ所の変換作業が関わっています。そして、音楽CDに保存できる音声データは「サンプリング周波数 44.1kHz、量子化ビット深度 16bit」という条件があります。

本当にこれらの高音質CD技術によって音質が向上するのであれば、録音部分をいっしょにしてCD作成を既存の技術と新しい高音質CD技術で行った二種類のCDを用意し、同一の再生環境で再生して音質を調査する、その際には人による主観的要素が入る聞き取り評価ではなく、スペクトルデータのようなはっきりと違いが明確に分かる形でのデータを載せて、初めて高音質になったと言えると思うのですが、この手の技術でそういう比較を行って説明している製品は見たことがありません。

上記のグラフででているような「帯域バランス」「解像度」「音場感」「音色感」「音圧感」ってのが、数値的に表せるデータではなく、聞く人の主観的な評価であるってのが、一番うさんくささをかもしだしている部分ですね。


なんだか良くわからない「高音質CDの方が音質がいいという謎グラフ」を提供されるくらいだったら、目隠ししてコーラの飲み比べの方がまだ信頼性が高いと思うのですが。



自分が好きな音楽を聴くにあたり、できる限り高音質でそれを聴きたいという欲求は確かにありますが、どうにもAV機器の分野を見てると高音質になればなるほど怪しげなオカルトチックな評価が多くなっていきます。



音楽を聴くのは、「自分の好きな音楽」(音楽コンテンツそのもの)を「高い音質」(再生機器)で「聴きたい環境」(入手手段、再生機器)で聴く、という3つの要素があって、それらの掛け算で充実感が味わえます。音質だけを考えれば、より高い音質である方がいいのですが、より音楽視聴全体の充実感を高めたい、という観点からすると、この3つの要素の掛け算の結果が高くなればいいのであって、音質だけを追求しなくても他の二つの要素を高めればいいという話にもなります。

そして、これらの要素はコストをかけるほどに高い点数が得られますが、人は音楽だけを聴いて生きるにあらず、それぞれの人が音楽にかけられる予算を見ながら、なるべくコストパフォーマンスが高くなるような聴き方、視聴環境を選ぶとしたら、今は「高い音質」よりも「自分の好きな音楽」や「聴きたい環境」部分に注力するのが正解に思えます。



もちろん、人それぞれ、どこに注力して音楽を聴くかは自由ですが、どうもここはおかしいんじゃないのかなあ?と常日頃感じてるところを書いてみました。