いつまで音楽はCDにこだわり続けるのだろう?


問おう。貴方が私の原盤(マスター)か? - E.L.H. Electric Lover Hinagiku
高校生は、音楽CDのことをなんと呼ぶか?:小鳥ピヨピヨ(a cheeping little bird)」を読んで。

高校生が音楽CDのことをマスターと呼んで、友人間で回してPCや携帯用に取り込んでいるという話題。


問題: 最近の高校生は、音楽CDのことをなんて呼んでるでしょうか? 答えは…… 「マスター」だそうです。 つまりこういうことです。例えば、クラスで誰かが、「おーい、浜崎の新しいアルバムのマスターゲトったぜ」 と言います。そしてクラスの子全員に回覧して貸します。CDを受け取った子は、iTunesか何かにそのアルバムを取り込んで、次の人に回します。回覧が終了したら、そのCDはポイ。もうパソコンに取り込んだから、不要なのです。

この話が高校生の一部の話なのか、よくある話なのかは分かりませんが、PCがある程度使える層ならあり得る話。しかも、学生時代なんて何時の時代でも金欠ですしね。

今はこうしたCDからPCへのリッピングですが、以前はMD、カセットテープへのダビングってのがこれに相当する行為でした。

音楽の売り上げが落ちてる理由って、ネットじゃなくて、CDが原因なのかもしれないですね。

でも、音楽の売り上げが落ちているのがネットじゃなく、CDが原因かもしれないってのはちょっと違うかな?、と。CDを取り込む様な行為はかつてもカセットテープなどで行われていたのだから。

CDが存在してるせいというよりかは、音楽供給手段をネットにシフトしないせいってのが大きい様に思います。後述するように。


高校生がやっていることは、今も昔もそんなに変わらないのではないかと、思う。記録媒体がカセットテープやMDからパソコンやiPodに変わっただけで。非可逆圧縮されたmp3やaacで聴くぶんには、目くじらを立てるほどでもあるまい。われわれだって金欠の高校時代には、十分CDをマスター扱いしていたのだ

学生時代、友達の間で気に入った曲をカセットテープでやりとりするなんてのは、そういう装置が学生にも扱える様になった時代以降はごく普通に日常的に行われてきた行為。いくら記録媒体が変わろうが、好きな音楽を共有するってのは彼らが使えるお金の範囲内で可能な方法を用いて今も昔も行われ続けてるんだと思う。

昔はMDやカセットテープなどのメディア代がかかったけれども、今はPCに取り込めばメディア代はいらないし、CDをマスターとしなくてもネットから落とせばマスター代すらいらなくなる。それがいいか悪いかは別として。


問題は、CD-R内臓パソコンと安価なCD-Rの普及によって、CDそのものをほぼ無劣化で複製できるようになったことだろう。300円ちょっと出してCDを借り、1枚100円ちょっとのCD-Rを用意すれば、買えば1000円なり3000円なりするはずのCD自体を手元に置けることになるのだから(もちろんジャケットその他の付加価値は捨てることになるが、そんなものを有難がる連中はそれこそ新品で購入する気がする)。

音質にこだわる人なら、PCを使えばほぼ無劣化でCDを複製可能だというのを知ってるだろうし、実際レンタルCDを借りてCD-Rに複製なんてこともやると思うけど(レンタルショップのレジそばにCD-RやDVD-Rが大量に山積みになってるのはそれ目的のためとしか言いようが無い)、そこまで音質にこだわる人ってのもごく少数派なんじゃないかという気がする。


あと、意外に知られていないようだが、ニコニコ動画が事実上音楽ファイルのアップローダの役割を果たしていたりする。 SMILEVIDEOはかなり高性能な共有サーヴィスで、エンコード如何では、音源部分で320kbpsという最高音質のmp3圧縮を行った動画を投稿できる。これを利用して、高音質のCDフル音源が発売直後にアップされ、それをダウンロードして音源のみ抜き出し、iPodなどにインポートするという行為がすでに普及している。高音質でなくとも聴けさえすれば満足というひとが、ラジオ音源やTV音源を同様にダウンロードすることもある。「作業用BGM」と題された、投稿者のお気に入りの音源を寄せ集めた動画もそういう扱いを受けるようだ。

こうやってニコニコ動画にアップされている音楽ファイル関連動画、Youtubeに多いPV動画、無料着うたとも呼ばれている携帯掲示板でダウンロードできるとされている違法着うたなど、携帯も含めてネット上で無料で音楽を入手できてしまうというのが、かつてネットが存在してなかった頃には無かった環境で、これが音楽の売れ行き低下の原因の一つになってるいるであろうことは、ほぼ間違いない。


音楽の楽しみ方の変遷


私も学生時代の頃は友達と自分のお気に入りのアーティストの曲をカセットテープでやりとりして楽しんでたりしたし、ラジオの音源をカセットテープに録音して楽しんだりしてた。



その後、大学に進み人と音楽を共有することが少なくなった後は、CD購入か、CDレンタル→カセットテープという形が多くなった。

CDを購入するのは、特にお気に入りのアーティストかCD購入でしか手に入らない音源の場合で、それ以外はほとんどCDレンタル→カセットテープを利用していた。このカセットテープへのダビングは、のちにMD→PCへのリッピングと変化していくこととなる。2001年にiTunesがリリースされた後は、音楽を保存する場所は完全にPC上のiTunesライブラリに一本化している。

昔はラジカセやミニコンポだった音楽視聴手段が、今はPC上での再生に代わり、外出先での視聴手段はウォークマン、ポータブルCDプレーヤー、ポータブルMDプレーヤー、iPodと変化している。


音楽の入手先


自分のライブラリに加える音楽は、CD購入かレンタルが主流だが、CD購入の場合の「お気に入りのアーティスト」か「CD購入でしか入手できない」ってのは、住んでる地域と聞く音楽の種類に大きく左右される。


というのは、よほどお気に入りのアーティストの場合以外は、CDレンタルですませたい所なのだが、マイナーな音楽ジャンルの場合にはCDレンタルに入っていないというのもよくある話だし、地方在住などで大きなレンタル店が近所に存在していない場合にもやはりCDレンタルで借りられる音楽の種類も限られてしまう。

東京(都会)、札幌(ほどほどに都会)、登別(地方)と3カ所を移り住んで、それぞれの場所での音楽入手を思い返してみると、東京に居たときは渋谷のツタヤを利用していたが、聞きたい音楽のほとんどをレンタルで済ませることが可能だった。これが、札幌に住んでた頃は、借りたいCDを探すのに車で市内のレンタルショップを何軒も走り回って探してそれでも見つからないなんてこともよくあった。そして、登別になると何軒も走り回って借りたいCDを探すという行為自体が無駄に終わることが多くて(どこのレンタルショップも規模が小さいので)、レンタルショップでCDを借りるという行為からかなり遠ざかるほどになった。



音楽というのは嗜好品で、何も音楽を聴くためだけに生きているわけじゃないので、音楽を聴くために必要なお金や時間がたくさんかかるようになると、自然と音楽から離れることになる。よって、音楽を聴いてた量も東京>札幌>登別と、住んでいる環境での音楽の入手のしやすさによってかなり分かりやすく変わってた。



この地域による音楽入手難易度の差を埋めるべく、ネット上での音楽配信にはかなり昔から期待していたものの、日本におけるそれはいつまで経っても音楽入手の難易度の差を埋めるものとはならず、音楽業界のしがらみ(音楽レーベルと配信業者の関係で自分が利用したい配信サービスにいつまで経っても欲しい曲が来ない現象)やネガティブスパイラル(新しい曲、売れ線な曲が音楽配信でリリースされない→曲が売れない→ますます新曲がリリースされない、の堂々巡り)を見せつけられ続けている。


ネットという新しい音楽流通手段の登場


一方で、前述したようにネットを通じて音楽に無料でリーチする手段がものすごい勢いで広まりつつある。


ニコニコ動画Youtube、そして私は携帯電話で音楽を聴くことはないのでよく分からないが、携帯電話の無料着うた掲示板などがそうなのだろう、いままで、欲しい楽曲を探すのにCDショップやレンタルショップをあちこち探しまわっていたのが馬鹿らしくなるほどに簡単に聴きたい音楽を見つけることができる。

これらの音源は、低音質のものから高音質のものまでピンキリで存在しているが、たとえ低音質だったとしても、自分があちこち探しまわっても見つからない楽曲が簡単に見つけられてしまうという魅力はいかんともしがたいものがある。
ニコニコ動画Youtube、無料着うた掲示板からどんどん落とせ!と言ってる訳ではない)



CDのように簡単に音楽を取り込める音源が存在している状況で、ネット音楽配信にだけDRMのような料金を支払った人に不便を強いるようなしくみをかけ続けているのはナンセンスとしか言いようがないし、CD限定、着うた限定、とユーザーが楽曲を購入する方法を限定することには熱心なのに、広げる方向への発展はなかなか見られない。

海外ではネット音楽配信が音楽流通の主流となっている国もいくつも出て来ている中、日本はいつまで経ってもそれらの国に追いつくどころか引き離されて行く一方。

音楽を真っ当に対価を支払って購入して楽しもうという人にとっては、選択肢は(買う・レンタルする)か(買わない・レンタルしない)のどちらかしかない。せっかく聴きたい音楽を見つけられても、正当に(買う・レンタルする)という手段が存在しない場合には、(買わない・レンタルしない)しか選ぶことができない。



ネット上で自分が聴きたい音楽に簡単に到達できる手段が数多く存在してる中、つまりはネットを使えば音楽を地域やジャンルによる在庫数など関係なく、どこからでも容易に入手できる方法が実現しうると分かっているのに、いつまで経ってもCD中心なスタイルを崩そうとはせず、着うたなど予想外に売れてしまった方向にしか目を向けない日本の音楽業界には本当にため息しか出ない。
(積極的にネット音楽配信を提供してくれるアーティストは非常にありがたい存在だが、そんなに多くはいない)



ネットを通じて、簡単に欲しい楽曲に到達できることを知ってしまった人達はもう後戻りできない。かつての不便だった、聴きたい音楽があってもそれを諦めていた時代には。

ネットという新たな流通システムの登場によって、ユーザーの意識が変わってしまった以上、音楽の供給手段もそれを有効活用していく方向にシフトしていくしかないと思う。




音楽を求めてる人がいて、そこに音楽を届けられる方法はすでに存在しているのに、それを妨げているのはいったい誰なのだろう?